腕時計喫茶

「微妙」な時計を愛してる

「モンブリラン」獲ったどぉー!

 中古の腕時計をできるだけ安く入手する手段として、私も多くの腕時計愛好家のみなさんと同様に、様々な「オークション」を利用させて頂いております。

 賭け事の類には一切興味のない私ですが、その対象が大好きな腕時計であれば、落札に至るまでの駆け引き自体が毎度楽しみなものになります。安全に楽しく取引できる「場所」を運営して下さる方々には心から感謝しかありませんねm(_ _)m

 そんなありがたいオークションのシステムですが…そもそもオークションって何なん?…そんな風に考えることもあります。構図としては「誰かにとって不要になったモノを必要な人に売る」だけの単純なシステムです。

 ところが「買いたい!」「欲しい!」と願う人が多ければ多いほど、その品物の本質は変化していきます。オーナーに興味を失われ、或いは見捨てられた品物たちが、人生(モノ生?)の新たなステージに登るのです。

 オークションの最後、10分間の「攻防」を見れば、その品物がどれくらい求められているかが手にとるように解ります。個人が大半でしょうが、中には業者の方もいらっしゃるでしょう。それぞれがその品物に「今現在の価値」としての「値段」を提示しながら、数千円単位のせめぎ合いに賭けるのです。

 私の場合は「これは!」と直感したブツを発見したら、とりあえずメモ代わりの入札を行います。もちろん、それで落札まで行けるなんてことは皆無。その入札後にようやく、状態やら何やらのチェックを始めます。ここでブレスが短すぎることに気が付いて「しまった!」ということもしばしば(;´Д`)

 次に市場の最低価格を調査します。腕時計の場合、同じモデルでも製造時期によってキャリバーが異なったりしますから、その辺りにも注意しつつ「この時期のリリースなら○○円以下だと買いだな!」とか、ザックリとした目星を付けるのです。

 付属品の有無ももちろん考慮します。純正ケースに各種冊子が揃っていれば、中古の価値は跳ね上がります。ほとんどの場合、状態はあまり関係ありません。

 例えば中古市場での最低価格品が「オーバーホール済み」だった場合、オークションで落札しても損しない値段は「中古の最低価格からオーバーホール代金を引いた金額」となります。私の中ではこれはオークション入札の大原則です。これらの原則を守ることで、自分の中での最高入札額が朧気ながら決定する寸法です。

 そうは言っても、オークションの最後の数分には妙な闘争本能が湧き上がり、自分で引いた一線を超えてしまうこともあります。「やっちまった…」と後悔した次の瞬間に、他者がそれ以上の入札を決めてくれて救われたことも(;´∀`)

 要するに腕時計のオークションは「価値観をぶつけ合うバトルロイヤル」であると言えます。そうして完成した価値観は次のオークションの基準に据えられ、新たな品物の登場を待つことになるのです。

 

 

 

 先日、とあるオークションアプリをいつものように閲覧していたら、マイページの「落札欄」に通知を発見。アレ?落札できた案件なんてなかったはずなのですが…

 それは数日前に入札したものの、最高額の争いに負けて撤退した案件でした。 敗退した記憶は鮮明だったので「何事か?」と添付のキャプションを読みますと…

 「あなたが落札者です」と書かれていました。いやいや、ワシ「盛大に玉砕」したやん?

 このキャプションだけでは何が起きたかさっぱり解らない状態だったので、何かメールでも来てないものかと探してみました。あった!メール来てました。でもこれは見逃すわ…(探しづらい所にあるのです)

 「最高額入札の方がお金を支払わなかった」…なるほど、それで私におこぼれが来たと。

 敗退してからそれなりの時間が経過していたので、諦観とともに「熱」も冷めてしまっていました。オークション自体がある種の狂騒の中での出来事ですから、一旦落ち着いてしまうと「あの時どこまでその腕時計が欲しかったのか」が思い出せなくなってしまったのです。

 私の正直な感想を言いますと「やれやれ…困ったなぁ」でした。改めて「欲しいか欲しくないか」の地点に立ち戻り、再びお金を支払うための正当性を取り戻せるかが問題です。それくらい、私という人間は「負け戦には潔い」タイプなのです。さっぱりスッキリ忘れて「さぁ!次行くぞ!」みたいなところがあるのです。

 結局、丸一日悩ませてもらいました。そしてこの「おこぼれ落札」を受けることにしました。まぁこういうのも縁かもしれませんし、幸運っちゃー幸運ですしね。

 

 

 

 そうこうして落札したのが、ブライトリングの「ナビタイマー・モンブリラン (A41330)(A414G96NP)です。近年の中古市場でもそれなりに取引のある腕時計ですので、名前の通りは良いと思います。大きな値崩れもないですね。

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こうして持たせると「IWGP世界ヘビー獲得」みたいですな(笑)
【Breitling Montbrillant, Ref. A41330】

 私としては2本目のブライトリング(3本目だったっけ?あれ?)です。ほとんど無意識にですが…好きなんだと思います。このブランドのコンセプト自体が(ビコロ欲しい欲しい病なんかもありましたしね)

 とはいえ「ブライトリング命!」みたいな感じではないのです。例えば最近のブライトリングが作る「ブライトリングらしさを感じない時計」に対しては、どうにも食指が…もちろん観測は継続中です。ブティックで何度も新作の実物を拝見しています。しかし何ですかねぇ…ナビタイマー8(アビエイター8に改称したんでしたっけ?)をリリースした辺りから、ブライトリングらしからぬ「軟弱さ」を感じるようになったのです。

 ケースサイズがデカいとか小さいとか、そんな些末な問題ではないのです。ライダータブがあるとかないとか、そういう解り易さでもない。2010年辺りまでのブライトリングにはラインナップ全体から「男の憧れ」が薫っていたのです。少年期に松本零士先生のファンだった人なら共感してもらえるはずの、集積したメカメカしさ。

 前述のアビエイター8にしても、確かに良い時計なんです。腕に乗せれば高級時計に共通した感動があります。けれどそれは「ブライトリングというメーカーが作るまでもない腕時計」のような気がするのです。昔のブライトリングに「ほの字」だった人の多くは、同じように感じているのではないでしょうか?

 1990年代後半から2010年辺りまでのブライトリングには「男を惚れさせる腕時計」が揃っていました。メカ好きの男子がその緻密な「計器」に誘惑されていったのです。30万~50万円という「頑張れば何とか買える」価格設定もあって、私でも手に入れることができました。

 この辺りの年代のブライトリングですが、一部の辛口好事家を除けば、評価は総じて高かったと思います。その理由の一つは、手抜きのない徹底した細工の美しさにあるでしょう。

 プロツールとしての機能性と共存する貴金属並みの美麗な外装は、この時期のブライトリングに共通するセールスポイントでした。中古市場での価格推移も安定しており、それは今なお高い人気を有しています。今回手に入れた「モンブリラン」もその一つ。

 このモンブリランですが、どういうワケだか本家ナビタイマーと比較して「弟分」というイメージがあるんですよね。しかし、現行ラインアップではナビタイマーとモンブリランは完全に「別物」という扱い。それを見る限りモンブリランはナビタイマーからの派生品などではなく、あくまでも対等のラインということになるでしょうか。

 1942年に発売された「初代クロノマット」がモンブリランの元ネタだと言われていますが、このクロノマットは今のイメージとは程遠い「ナビタイマー顔」だったそうです。って考えると、その後に発売されたナビタイマーに影響を与えた「前身」にあたるワケで、むしろモンブリランこそがナビタイマーの兄貴分なのではないか?

 今回手にいれたモンブリランは製造年代的には「第三世代」に属するとのこと(第三世代という響きにゾクゾクしちゃう人は間違いなくアッチ系ですね)ちなみに直後の第四世代ではブランドロゴがゴシック体に変わってしまい、見た目の趣が少なからず異なります。ダイアルロゴの支配力って侮れないのです。個人的には「モンブリラン!」って感じがするのは筆記体ロゴの方。

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ナビタイマーでもあり、モンブリランでもあると…

 裏蓋には「ナビタイマー・モンブリラン」の刻印。今となっては貴重なダブルネームって感じもして、ちょっぴりくすぐったいですね(*´∀`*)

 モンブリランと言えばダイアルの真ん中を支配する印象的な「デシマルメーター」が特徴的ですが、このクラシカルな意匠には筆記体ロゴの方が似合うのです。些細なこだわりですが…ここは譲れません。

 私にとって初のデシマルメーター搭載機。いずれはクルクル渦巻きのスネイルタキメーターも手に入れたいですなぁ…( ´-ω-)

 

 

 

 ムーブメントは「B41」 ETA 2892-2ベースです(一応はクロノメーター)。つまり、またしても2階立てクロノグラフが増えたのでございます。だんだんと「2階建てコレクター」の異名に近付きつつある気もしますなぁ(;´∀`)

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「2階建て」の証がここに

 実際のところモジュール後付けであっても使い勝手には何ら不満もなく、私にとってはヘーベルハウス並みの「安心の2階建て」。修理も工房によってはむしろ得意にしている場合もあるそうで、日本にいる限り安心して使えそうです(誰かさんが「街の修理業者には部品供給しないもんね~」なんて意地悪言ってたこともありましたけどねぇ)

 そもそも「後付け」とか言うから聞こえが悪いのです。日本人なら「合体」と呼ぶべきです。パワーアップしちゃうんだから!

 さて、なが~い前書きはここまでにして、入手したモンブリラン実機のレビューをしていきましょう。

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目立つ傷などは見つからなかった

 まずは外装(見た目)ですが、当初の予想よりはるかに良い状態でした。ケースやブレスのスレ傷も年式を考えれば少ない方だと思います。そもそも外装表面のほぼ100%がポリッシュなモンブリランです。細かい傷くらいは根性で仕上げてみせますとも!

 とはいえ、私レベルの仕上げでは太刀打ちできない傷が「打痕」。でも今回は有難いことに、酷いヘコみはありませんでした。

 問題は風防の状態。探せば見つかるレベルですが…それなりの線傷を発見。まぁ目くじらを立てるほどでもなく「味わい深さ」として放置することに。かまへん、かまへん(ヾノ・∀・`)

 ブレスにはヨレもなく、引っ掛かるコマもありません。アラを探すとすればバックルに僅かな変形からくる硬さを感じる程度。

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上品で美しい7連ブレスです

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ロックが少し固くなってました

 到着時のブレスの長さからして、恐らくフルコマが揃っています。これを私の左手首外周「16.5センチ」まで詰めました。

 所謂ナビタイマー仕様のブレスのコマ詰めは、私も初めてでした。よく巷で語られる話に「ナビタイマーのブレスのコマ詰めは難しい」というのがあります。ショップで「新人の技能研修」に使われることも多いとか何とか…ビビらせてくれますなぁ(;´∀`)

 構造は7連。疑似7連でないことは時計を持ち上げた瞬間に感触で解りました。それでも7個のパーツが支柱によって繋がっている作りなら、私にとっては序の口です。

 で、スクリューピンを抜きました。反対側の受け座のピンを抜けば、コマは勝手に分離するはず。

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慎重に…傷つけないように…

バラバラバラ…

((((;゚Д゚)))))))

オイオイオイ!!

 

 本当に一コマのパーツ「7個」が全てバラバラになってしまいました。机の天板に敷いていたクロスの上に自由落下したパーツたち。困ったことに配列順も裏表も解らなくなってしまったのです。なんとも厄介な…(´;ω;`)

 よ~く観察すると、両端にあるべきパーツは穴の空き方が微妙に異なることに気付きました。さらに側面をじっくり見ると、表裏の正しい向きも判明。両端のパーツに気を付けつつ、真ん中の5つのパーツは自由に配置して構わない、そんな感じです。

 確かに経験の浅いスタッフに、いきなり任せられる仕事ではないですね。メンター付けて指導しながらでないと…大切な商品を傷だらけにしかねません。

 しかしこの複雑な構造が、金属とは思えない極上の着け心地を約束してくれます。スティールフィッシュもそうでしたが、ブライトリングはブレスの出来が素晴らしいメーカーです。時計本体以外の性能も大切に考えてのことでしょう。

 総じてナビタイマーより一回り小さい(38ミリ)モンブリランですが、視認性が犠牲になっているかといえば、そんなことはありません。確かにダイアル関係の作りも小ぶりで、当然針も小さい。さらにデシマルメーターがインダイアルをややこしく横切るため、情報の混雑っぷりは否めません。そして今回入手した「A41330」はシルバーダイアルです。針の見易さでは劣るでしょう。しかし、ほんのちょっとした気遣いでその辺りの問題を上手にクリアしています。

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解りづらいですが、クロノ系の3本は青針です

 クロノグラフ関係の針がセットで「ブルースチール」なのです。これはショップサイトの写真を見ただけでは気付けないディテールでしょう。これにより「時刻」「クロノグラフ(ストップウォッチ)の視覚的な棲み分けができちゃってるのです。たったこれだけのことで、です。

 また、ナビタイマーとの差別化としては「インデックスの違い」が挙げられます。ナビタイマーのようにストレートなバーインデックスではなく、モンブリランには楔形のデザインが用いられています。世代によって微妙な変化はありますが、時針、分針の形状と合わせて、モンブリラン独特の「クラシカルでエレガント」な雰囲気作りに一役買っています。

 この個体はダイアルの状態も良く、盤面にも針にも腐食の類はありませんでした。防水性の低さはナビタイマー譲り(30m)ですから心配していたのですが…杞憂でした。

 

 

 

 ムーブメントの状態ですが、リューズ操作の軽快さから察するに問題はないと思います。クロノのプッシャーも連続操作してみましたが、コラムホイール式を除けば、ウチのクロノグラフさんたちの中でも軽い方でした。まぁしばらくはこのままで使えるかしらん(*´∀`*)

 特徴的な「回転計算尺」。実際に使う機会はほとんどありませんが、デザイン上の存在感は絶大です。ベゼル自体をゆっくり回して操作。昔の両方向回転だった頃のカウントアップベゼルみたいな「むにゅ~」っとした感触です。

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遠縁の従兄弟に会った感じでしょうか(笑)

 回転尺用のツマミを回して操作する方法なら、Sinnの「903」のように防水性の向上ものぞめますが、余計な突起物を増やさずスッキリ…ってことなら、ベゼル手回しも悪くありません。しかし、こうして並べると「903」のゴツさが際立ちますなぁ。華奢だぜ、モンブリラン(*´∀`*)

 え~っと他に何か書くことあるかなぁ…そうだ、外装の「総ポリッシュ」については、商品到着まで知る由もありませんでした。オークションサイトの写真映りではとてもじゃないけど判別なんてムリムリ。中古を扱うサイトさんには是非とも、外装の「ポリッシュかサテンか」を示す情報の提示をお願いしたいところです。現物を手に取っていない人の購入のきっかけとして、結構大事な情報だと思うのですが…

 まぁとりあえず…このモンブリランに関しては「つるつるのピカピカ」でした。ツール感満載のクロノグラフでありながら、全体的な印象はラグジュアリー感の強いドレスウォッチのそれですから、余りにラフな服装には似合わないかもしれませんね。

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ちゃんとしたシャツの方が合います(汗)

 残念というほどではありませんが、私には手の施しようがないのが「風防の傷」。擦り傷よりも深い線傷もありました。恐らくは歩いているときに「ヨロっと」して、コンクリの壁にでも「ガリッと」やっちまったのでしょう。

 「あるよなぁ~」などと、以前のオーナーさんの使い方を想像するのも中古買いの愉しみ方だったりします。ホントに「傷や不具合も継承する」くらいの覚悟がなければ、中古時計とは付き合えません。

 オークションなどで中古商品を落札した方が、後々状態に文句付けて売り主を困らせるケースも少なくないと聞きます。個人的な意見ですが、明らかに騙されたのでなければ、状態については甘受する気構えが必要なのではないかと思います。

 私ですか?今回の「モンブリラン」には結構満足しています。もしもハズレを引いたとしても「ワシに見る目がなかったんやぁ~」って思うだけですね(*´∀`*)