腕時計喫茶

「微妙」な時計を愛してる

復活の「独立多眼式クロノグラフ」!! プロスペックス SPEEDTIMER『SBER』シリーズ

 ここ1年くらいですかね?? 筋金入りの腕時計愛好家さんたちと知り合ったり、言葉を交す機会が圧倒的に増えたのは。

 その繋がりの起点はほぼ「ツイッター」なわけですが、私という腕時計好きのオッサンに興味を持ってもらえる一因としては、私が弊ブログ「腕時計喫茶」の主宰であることも無関係ではないでしょう。正直、私なんかが何年執筆を続けようが「永遠の素人」であることは変わりません。それでも、細く長く続けてきて良かったと思うのは、目の前の愛好家さんに「あの『腕時計喫茶』さんですね。存じてますよ」と言ってもらえる瞬間だったりします。何やかんやで、小さい足跡くらいは残せたのかもしれんなぁーと (*´∀`*)

 で、そうやって愛好家さんたちと刺激的な情報交換を行なう中で、ふと思うのです。日本人の愛好家にとっての「評価のモノサシ」は、良くも悪くも「セイコー」なんだなぁーと (;´∀`)

 

セイコーへの厳しさは親愛の証か??

 ぶっちゃけ「セイコー」さんに厳しい愛好家さんって多いんですよ。手放しで誉めるところを見たことがないくらい。例え「ちょっと良いなぁー」と思っていても、大抵が「注釈付き」の誉めかたなのです。日本人なら生まれた瞬間から身近にあって当然のセイコーさんならではといいますか、身内ゆえに自然と点が辛くなっちゃうんでしょうねぇ (;´Д`)

 何の根拠もない想像の範疇で恐縮ですが、愛好家の皆さんが「セイコー」というブランドに求めるものって、それぞれにかなり異なると思うんです。100年飽きずに使えるドレスウォッチを期待する人もいれば、ガチで使えるダイバーズこそ「セイコーの真骨頂」だと考える人もいるでしょう。愛好家の数だけセイコーさんへの異なる期待があるとすれば、そう簡単に合格点をあげられないのも頷けます。

セイコーの「はっちゃけ」が面白い

(出典:https://www.seikowatches.com/

 私ですか?? そうですねぇ…具体的にコレっていう「作ってほしいモデル」はないのです。世界でも希有な「オールラウンダー」ですからね。自由に好きなモノを作ってくれたらそれで良いと思います。

 ただ、一つお願いしたいことがあるとすれば…良い意味での「はっちゃけ」を忘れないでほしいと思っています。変な大御所感を出さず、いつまでも「落ち着きのない兄ちゃん」みたいなセイコーさんであってほしいのです。多分、私がこれまでセイコーさんから授かった「ドキドキ」「ワクワク」は、そのほとんどが、何かしらの「はっちゃけ作品」だったと思いますし、これからの時計にも期待せずにはいられません (*´∀`*)

 とか思ってたら…やってくれましたわ(笑) 何だかもう、オモロすぎる時計を作ってくれました。まさかあの「独立多眼式」を復活させるとは(笑)

 

復活の「独立多眼式クロノグラフ」

 その報に触れた瞬間に「キネクロやん!?」と(小声で)叫んだ私。近年は「読める」ケースが多かった新製品発表でしたが、これは本当に「斜め上」でした。こんなん誰が予想できんねん?? (;´∀`)

(出典:https://www.seikowatches.com/

SPEEDTIMER SBER

 しかも「プロスペックス」から「スピードタイマー」の冠を付けて…です。まあ確かに、かつての「キネティック クロノグラフ」「スポーツウォッチ枠」でしたけど。プロスペックスの括りで見ると、その異形が一層際立ちます。もちろん、良い意味で!! (笑)

 では、本格的に最新型の多眼式「SBER シリーズ」を観察する前に「独立多眼式」のオリジナルモデルである、件の「キネティック クロノグラフ」について、ザクッとご説明しておきます。やばいっすよー。改めて見ると、これが刺さる刺さる (*´∀`*)

オリジナル「キネクロ」を紐解こう!!

SBXZ001(出典:https://www.seikowatches.com/

 「独立多眼式クロノグラフ」は数あれど、誰もが思い出すのは、やはりコレでしょうかね?? 所謂「初代キネクロ」…キネティック クロノグラフの初代モデルです。実際、現代の感覚で見てもこれは強烈!! 海外にも未だに根強いファンがいるらしいですし「一度見れば忘れない時計」という意味では、東西に並ぶものなしかもしれません。だってコレ、完全に松本零士先生の世界ですもん。そういう意味では、あの時代に何かしらの影響を受けた日本人少年の「夢」みたいなものが、この「キネクロ」からは感じられます。

SBXZ001(出典:https://www.seikowatches.com/

 デザイナーはセイコー所属の佐藤紳二さん。無国籍なその見た目からまるで外部発注のデザインに見えますが、自社のデザイナーさんだったんですねぇ。日本人の発想ってところが嬉しいなぁ (*´∀`*)

 そうそう!! コレなんです。真面目に突飛なことを貫徹してしまえる「企業風土」こそ、私がセイコーさんに今後も期待せずにはいられない理由なのです。それにしても…格好良いな!! マジで「戦闘機」「レーシングカー」の計器にしか見えんぞ (*´∀`*)

 

独立多眼式の系譜

 私自身は追い切れていませんでしたが「独立多眼式」の系譜って、それなりに分厚いんですよ。取り敢えずセイコーさん公式の資料から、リリース順に並べてみましょう。

(出典:https://www.seikowatches.com/

 最早、コレだけで一つのブランドになりそうな感じです。筋の通ったデザインコードを守っているので「独立多眼式」だけを切り取っても薄っぺらい感じがしません。どうでしょ?? 年に一本ずつのリリースでも良いから、思い切って独立させてみては??

 並べてみて明らかになったのは、初代「キネクロ」の完成度の高さでした。これほどの切れ味を初手からぶっ込めるセイコーさんの底力…恐るべしです。

 あくまで私見ですが「視認性」の一点で評価しても、初代「キネクロ」の完成度は群を抜いています。新たに系譜に加わった「SBER」と比較してもそれは歴然。「全てのダイヤル」を一つの風防で覆う新作のスタイルよりも、それぞれを「完全に独立させた風防で覆うダイヤル」の方が、視覚の目的が絞られ、明確になるからでしょう。そして、それに気付いていたからこその「鉄仮面スタイル」だったと思います。まさしく、初代を名乗るに相応しいエポックメイキングな「多眼式」です。

 その辺りを踏まえた上で、7月8日発売の新作「SBER シリーズ」を見ていきたいと思います。

「SBER」として4本の独立多眼式を発表

(出典:https://www.seikowatches.com/

 今回の新作は計4本。レギュラーモデルが2種類で、限定モデルが2種類です。数量限定モデルは世界限定本数で4000本。そのうち国内には700本が割り当てられるそうです。

 価格は11万円から12万1000円。ソーラーのクロノグラフでこの値段は少し高いかなぁーって感じがしないでも…ぶっちゃけ、もやっとするお値段ですよね?? その部分の説得材料になるやらならないやらですが、ムーブメントは「100分の1秒単位の計測」を可能にした新開発のソーラークロノグラフムーブメント「キャリバー8A50」が使われています。まぁ、有り難いっちゃ有り難い付加価値ですし、セイコーさんの「本気(マジ)」も垣間見えます。

 サイズは共通。ケース幅は42ミリ、厚みは12.9ミリです。これだけの多機能詰め込んで「42ミリ」は頑張ったんじゃないでしょうかね?? 風防は内面無反射コーティングのカーブサファイアガラスです。

 複雑な機能を制御する必要がある分、プッシャーとリューズで4つの角が飛び出てはいますが、それでも気合いで10気圧防水を担保!! 何かもう…さすがやな(笑)

 

「SBER001」(レギュラーモデル)

(出典:https://www.seikowatches.com/

 で、こちらがホワイトダイヤルが清々しい「SBER001」でございます。コレか…コレでしょうねぇ売れ筋は。人気者のパンダダイヤルですし。異形を活かしつつも日常に落とし込みやすいデザインになっています。ケースはステンレススチール(SS)お値段は11万円。

 

 

「SBER003」(レギュラーモデル)

(出典:https://www.seikowatches.com/

 ブラックダイヤルも鉄板でしょう。黒いと一層「コクピットな感じ」が増します。メカメカしさをどストレートに味わうなら、コレかなーって気がしますね。例えばバイク乗りが着けてたら、超格好良くないですか?? ケースはSS。こちらもお値段は11万円です。

 

 

「SBER005」(限定モデル)

(出典:https://www.seikowatches.com/

 世界初の「アナログクオーツクロノグラフ」の誕生40周年を記念した限定モデルです。確かにセイコーさんが出さんでどこが出すねん!?みたいな微妙な節目ではあります(笑)バックグラウンドのグレーのダイヤルにオレンジの針。めっちゃスポーティーです。ケースはSS。こちらのお値段は11万5500円

 

 

「SBER007」(限定モデル)

(出典:https://www.seikowatches.com/

 こちらは2023年夏に開催される「世界陸上ブダペスト23」を記念したモデル。ポイントで使われるゴールドがアクセントとして、お洒落に効いたデザインです。ケースは硬質のブラックコーティングを施したSS。お値段は12万1000円。元来、黒いケースの時計に興味の薄い私ですが…やべぇ!! コレ大好きかもしれん!! (*´∀`*)

 

 

腕時計好きに振る舞われた「懐石料理」

(出典:https://www.seikowatches.com/

 計器然と独立した小さなダイヤルを大きなお盆に載せたような姿は、どこか和食の懐石料理のよう。迷い箸のように視線が彷徨うかもしれませんが、それすら楽しむのがこの時計の醍醐味ではないかと思います。この辺はオリジナル「キネクロ」にはないニュアンスですね。過去作の中では「SATX」に近いかなー??

 「SBER」に詰め込まれた情報を日常的に必要とする人はほとんどいないでしょうが、多くのクロノグラフがそうであるように、贅を尽くした「無駄」を所有する「粋」を理解できる方ならば、このモデルの「味」が解るのではないでしょうか??

 

新型キャリバー「8A50」とは??

 機能面は共通です。それでは新作キャリバー「8A50」の各機能についても見ていきましょう。

(出典:https://www.seikowatches.com/

 デザイン上の最大の特徴でもある「積算計の独立」。図中①の12時位置に60秒のスモールセコンド、③の10時位置に10分の1秒、⑦の2時位置に目玉機能の100分の1秒を配置。さらに⑤のメインダイヤルは「ストップウォッチモード」「60分の積算計」へと早変わり。これだけの多機能ウォッチにさらに隠し機能を盛り込む辺りは、技術のセイコーの面目躍如でしょうか。過充電防止機能に電池寿命切れ予告機能、針位置修正機能を搭載しています。

 平均月差はプラマイ15秒。フル充電時で約半年間駆動です。

不思議と漂う「上品さ」

 理数系の賢さを詰め込んだような時計でありながら、全体の印象が「可愛く」収まっているのも不思議なデザインです。むしろ「上品」と表現しても良いかもしれません。

 特に6時位置のメインダイヤルからは「ランゲ1」のような佇まいさえ…うーん…言い過ぎでしょうか?? さすがに誉めすぎですよねぇ(笑)

 しかし、この「SBER」シリーズに関して言えば、オリジナルの「キネクロ」が目指した「一体感のある尖ったデザイン」とは異なる汎用性の高さ…「潰しがきくデザイン」を目指したことは間違いないでしょう。「多眼」という特徴を活かしつつも「普通に使える時計」として仕上がっています。故にブレスレットからレザーのストラップに替えたりして遊んでも楽しいでしょうし、そういう意味では、万人が使えるように上手なソフィスティケイテッドがなされていると思います。さすがに「鉄仮面」では一部の方のニッチな要求を満たすに過ぎませんからね (;´Д`)

 

腕時計進化の「IF」として

 腕時計の技術的な進化の歴史は、針の表示でアウトプットされる「散らばった情報」をいかに「一つの軸線上に集中させるか」に費やされてきたと思います。別枠扱いだった秒針がセンターセコンドに統合されたり、近年ではハイブリッド型のスマートウォッチが、シンプルな針の動作を使って、時間とは無関係の情報伝達を行ったり。

 それもこれも、限られた大きさの「腕時計」なればこそなのですが、そう言った「制限」が技術者のチャレンジ魂に火を点け、難問の多くを克服してこれたのでしょう。

 「独立多眼式」とは、これら技術的な進化を「逆走」する如き発想だと思います。可能な限り同軸上に統合されてきた機能をバラバラに分解して、そこに何らかの「転換」を促すものです。

 腕時計の「視認性」は人それぞれに捉え方が異なるため、何が優れているかの言及には限界があります。そもそも「慣れ」の要素が強いでしょうから、使用者の数だけ考えがあるはずです。ですが、所謂「レギュレーターの視認性最強説」に倣うなら「独立多眼式」も、高度な視認性を実現するための手段としては有効なのかもしれません。

 もしかしたら、針の「中央集権化」はアナログウォッチの自由な進化を掣肘するものだったかもしれません。「独立多眼式」のように複数の機能をバラバラに配置する発想が、もう一つの「スタンダード」になり得ていたなら…アナログウォッチの形や大きさは、現在の常識を少なからず逸脱するものになっていたかもしれないのです。

 再登場した独立多眼式「SBER シリーズ」の登場は、途絶えていた系譜を再び繋ぎ直すという意味以外にも、アナログウォッチの「スタンダード」に対して、その「再定義」を働きかけるものだと思います。「その昔『独立多眼式』が売れまくっていたなら、腕時計の世界はどう変わっていただろうか??」…そんな「歴史のIF」に思いを馳せることがあるとすれば、新作独立多眼式「SBER」には、単なる新作以上に担うべき「大切な役割」があるのかもしれません。

 

最後に…

 より普通っぽいアウトラインの中にアクの強いルックスと機能を詰め込んだ「SBER」は、時計史に深く刻まれた「キネクロ」のコンセプトを現代の消費者に広く遍く届けるための、貴重な「第一歩」なのではないかと思います。

 個人的には、誰もが似たような時計を欲しがる現状打破のためにも、こういう「変態時計(良い意味で!!)」が好評を博して売れまくることを期待しています。先々の展開が見たいですもん…売れてくれぃ!! (*´∀`)

 

Specifications

キャリバーNo:8A50 駆動方式:ソーラー 精度:平均月差±15秒 駆動期間:フル充電時約6ヶ月間 機能:過充電防止機能 ストップウオッチ機能(1/100秒計測 60分計) 電池寿命切れ予告機能 針位置修正機能 防水:日常生活用強化防水(10気圧) 耐磁:あり 重さ:152.0g ケース材質:ステンレス ケースサイズ:厚さ:12.9mm 横:42.0mm 縦:48.3mm ガラス材質:カーブサファイア ガラスコーティング:内面無反射コーティング ルミブライト:あり(針・インデックス) 中留:ワンプッシュ三つ折れ方式 腕周り長さ(最長):195.0mm