腕時計喫茶

「微妙」な時計を愛してる

良い時計は3年後に真価を見せはじめる

これは最近解ってきたことです。

 

良い時計は「朽ち方」が素晴らしい。簡単に「高価な時計」などと括りたくはありませんが、お金をかけて材料や細工に奢った時計は、擦り傷が増え、へこみができても、その汚れ方がキレイなのです。

 

安価な時計でも、いい具合に枯れてきて肌に馴染むと言うか、そういう好意的な劣化が進む場合はあります。しかし、残念ながら元の素材が安物だったりすると、人間で言うところの「老化」に過ぎない状態になってしまうのです。目を背けたくなるような変化が起きてしまった時計は、「腐っても鯛」とは呼べないシロモノになり果てます。

 

どんな時計でも若い頃(新しい頃)は素敵です。好みのデザインの時計なら尚のこと。高価な時計も安い時計も、傷一つない輝きに大差はないように見えます。ところがほんの数年経過するだけで、本質的な実力が露呈します。故障の少ない実力派のムーブメントですとか、そういう中身の問題ではなく、単純に外見に表れるのです。その時計のお里が。

 

私の目が肥えてきて、素晴らしい状態のアンティークを掘り当てる名人の方たちに近づいてきたのかもしれません。具体的にどうこうと説明はできませんが、中古品の類を見る時、明らかに欲しい個体と遠慮したい個体がわかるようになってきたのです。そして、欲しい個体のほとんどは、元々出自のしっかりとした「高級品」だったりします。

 

私の所有する時計たちの中にも、購入から10年以上経過したものが数多くあります。その中で元が高価だった時計たちの朽ち方には目を瞠るものがあります。美しいのです。輝きはくすんでしまったはずなのに、新品時代とは異なる印象で新しい美しさを湛えているのです。内なる輝きというべきか、歳へて白かったダイアルが黄色く焼けてしまっても、その劣化の具合まで計算されたかのように美しいのです。

 

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このクロノスイスもいいお歳ですが、ケースなんて本当に理想の枯れ方をしています。

 

人間で言えば「本物の美人」といったところでしょうか。時代に左右されない価値観を持つパーツ(目鼻口)が絶妙に配置された顔は、どれだけ年齢を重ねてもブレない美を保ち続けます。日本の女優さんで言えば「高峰三枝子」さんかなぁ。そういう老いても消え失せない価値が時計にもあるわけです。アンティークの名品を大切になさってる方々はとっくにその魅力に気付いてる人たちなのでしょう。私もようやく少し追いつきました。

 

今日は久しぶりに「CHRONOFIGHTER 1695 (Ref. 2CXAS)を着けました。よく見ると細かい傷がアチコチにあるのがわかります。新品時代と比べてステンレスの輝きも鈍くなたような気がします。しかし、何というか…新しかった頃よりも幾分カッコいいのです。

 

どことなくパチモン臭かったクロノファイターですが、化けてきました。

 

これをどう表現すればよいのかわかりません。適切な表現が見つからないのですが、「コイツも高級時計やったんやな!」と妙に納得できたのです。

 

確かに定価で70万近い時計は高級と呼べないこともないでしょう。しかし、私のこれまでの評価は「雰囲気は最高だけど、時計としては中級の出来」だったのです。

 

それがここにきて発揮し始めた「色気」。人間の女性にも若い頃よりも40歳過ぎてからのほうが素敵な方がいらっしゃいますが、まさにそんな感じ。ダイアルやハンドの夜光の黄変を見ると、「いい歳のとり方してるな」と感じたのです。ステンレスの輝きの鈍り方も上品で、むしろ現在のほうが高級感を感じます。安っぽいNATOストラップなのに。

 

腕時計たちに対して深い愛情を感じるのは、こういう変化を見せてくれるからなのかもしれません。

 

 並行だとビックリするくらいお安く。あ!でもグラハムは並行差別アリです(汗)